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その人の力を信じで寄り添う看護や教育を大切にしたい

岩手県立大学看護学部 講師

緩和ケア認定看護師・がん看護専門看護師

高屋敷 麻理子


がん看護への道のりの始まり

私は20数年前に看護師免許を取得し、地元にある大学病院に就職しました。配属されたのは消化器内科病棟でした。当時(1990年代半ば)の消化器内科病棟は、急性期から終末期までの患者さんが入院しており、看取りも多くありました。そのため、胃がんや大腸がんと診断されて、全身に再発・転移をして、苦しむ患者さんのケアの難しさを日々感じていました。

その後、札幌の急性期病院で主に肺がん治療をする呼吸器内科病棟に勤務をしました。そこでは、20~40歳代のがん患者さんが多く、がん化学療法を行い、その治療効果がなくなり、治療が終了すると同時に終末期ケアとなり、1~2か月で亡くなるケースを多く経験しました。

当時はがん薬物療法の薬剤の種類も少なく、治療の有害事象も強かったので、症状コントロールが難しく、辛さを抱える患者さんを看ていることが辛かったです。終末期のがん患者さんの清拭をしている時に、患者から「これから、沢山勉強をして患者さんの苦しみを取ってくださいね。」と呼吸困難感で苦しいにも関わらず笑顔で話された際に、涙をこらえて頷いたことが心に残っています。


緩和ケア認定看護師(緩和ケアCN)を目指した理由

2005年に「これからはがん看護を専門に学び、看護をしていこう」と思い、東京のがん専門病院に就職をしました。配属されたのは、腫瘍整形外科病棟でした。腫瘍整形外科と聞いてピンときませんでしたが、当時の看護部長さんから、「骨軟部腫瘍、骨肉腫のがん患者さんが多い病棟で、10歳から90歳まで幅広い患者さんがいて、がんの手術・がん化学療法・放射線療法を行っているし、骨の痛みは強いから、がん看護のやりがい甲斐がある。」と言われました。実際に勤務が始まると、看護部長さんが言った通りでした。全国から治療が困難と診断されて、「この病院であれば…」と希望を抱いて訪れるがん患者さんも多く、地域性(方言や文化)を大切にしながら看護をすることの大切さも学びました。骨軟部腫瘍のがん化学療法は薬剤量が多いため、有害事象やがん性疼痛も強いことや、若年層のがん患者が多いのでご家族の悲嘆も大きく、胸を痛めることが多かったです。その中で、悲嘆ケアについても学びました。

がん患者さんとご家族が、少しでも安楽にがん治療を受けられるように、もっと看護の力を身につけたいと考え、当時、尊敬していたがん看護CNSさんの助言から、がんの初期から終末期までのがん患者の症状緩和や全人的苦痛の緩和をすることができる緩和ケア認定看護師を目指しました。


研修先は、北海道医療大学認定看護師研修センターでした。そこで、石垣靖子先生(現:北海道医療大学名誉教授)に出会いました。石垣先生が講義で、「終末期の患者さんは、苦悩や苦痛を抱えている中で、白か黒のように結果がはっきりすることは少なく、答えの出ない曖昧なグレーゾーンのなかにいることが多い。グレーゾーンにいる患者さんに寄り添い、傍らに居続けるのは大変なことで、そのグレーゾーンに居続け、寄り添える看護の力を身につけて欲しい」と言われました。その時の私は、患者さんの苦悩や苦痛を取り除くための支援ばかリ考えていたことに気づき、自分の未熟さを痛感しました。患者さんのそれぞれの個性を大切に、その人の力を信じで見守り、患者さんに寄り添う力の大切さを教えていただきました。

そして、2009年に緩和ケア認定看護師を取得しました。病院に戻ると、緩和ケア病棟に配属されて、終末期がん患者さんの緩和ケアを行いました。がん患者さんの抱える苦悩、グレーゾーンに共に居続け、寄り添いながら看護をするように努力をしました。その後に、自分の母ががんに罹患したことや、東日本大震災で実家が被災したこともあり、地元の岩手に戻りました。


がん看護専門看護師(がん看護CNS)を目指した理由

地元に帰り、盛岡市内の急性期病院の外来に所属しながら、緩和ケアチームで活動をしました。当時、緩和ケア認定看護師は私だけでしたので、緩和ケアを理解して貰うことや、緩和ケア認定看護師の役割を周知して、院内で緩和ケア認定看護師を活用して貰えるように活動をしました。病棟・外来の看護師の方々から、困難事例を聴いて、助言や勉強会をしていくうちに、緩和ケアチームの依頼や緩和ケア認定看護師の活動が増えて、やりがいを感じました。


しかし、外来・病棟のがん患者さんの症状緩和、精神ケア、がん治療や終末期の療養先の意思決定支援の困難事例に関わる中で、がん患者さんやご家族の支援や倫理的問題で悩むことが多くなりました。「がんの専門病院では、複数のがん看護CNSがいて、困ったときは、お互いに相談ができたのに・・」と思いながら活動をしていました。そんなある日、自分のがん看護の限界を感じ、「がん看護CNSがいなくて困るなら、私がなろう。がん看護CNSがいたらいいのにと思って過ごしている場合じゃない」と思い立ち、岩手県立大学大学院のがん看護CNSコースに進学する決意をしました。地元に戻らずに働いていたら、がん看護CNSに相談できる環境に満足し、がん看護CNSになろうと思わなかったと思います。そして、2015年にがん看護CNSを取得しました。


がん看護CNSの活動

大学院で、がん看護や看護理論を学んだことで、患者さんやご家族の状況を深く考える力や、がん相談を受けた看護師の事例について、何が問題となっているのか、その解決方法へのアプローチを客観的に捉えて他者に伝える力が身についたと思います。そのことにより、相談を受けた看護師や多職種の方々の悩みを受け止め、がん患者さんやご家族の困難な事例を共に考え、その患者さんやご家族にとって最善の支援を検討できるようになったと思います。


また、がん看護CNSの取得をしてから、自分の勤務している病院だけではなく県内のがん看護の向上を目指して活動をする必要性を感じました。近年、様々な認定資格が増えており、各専門分野が力を合わせて岩手県内のがん看護の質の向上を目指したいと考えて、2017年4月に岩手県内のがん関連の認定看護師やがん看護CNSと共に、「岩手がんを考える会」を立ち上げました。「岩手がんを考える会」では、医療従事者や市民を対象とした研修会や医療従事者の情報交換の場づくりといった活動をしています。2年前からWeb研修会も始めたところ、県外の看護師の方々にも研修会に参加していただけるようになり、がん看護の学びの場の拡がりを感じています。


大学教員になって

病院に勤務をしながら、学会の委員会をしていると、県外のがん看護CNSやがん看護CNSコースを担当している教員の方々から、がん看護CNSの教育課程や、がん看護CNSの育成について話を伺う機会が増えました。そのような中で、岩手県では2017年度から、がん看護CNSコース教育課程が休講となっており、がん看護CNSの育成が滞っていることを実感しました。そこで、勤務をしていた病院の看護部や現在務めている大学の教員に相談をして、がん看護CNSコースの教育課程や、大学・大学院での看護教育に微力ながら貢献したいと思い、大学教員になりました。

今年で、看護学部や大学院の教育に携わらせて頂いて、6年目になりました。看護学部の学生は、18歳~20歳代で青春真っ只中です。私からみると親と子どものような歳の差がありますが、子どものように思って対応するのではなく、一人の人間としてその人と向き合い、看護教育をすることを大切に学生と関わっています。私自身が、学生の感性や価値観に触れることで、教えられることもたくさんあります。自分の先入観や固定観念を持たずに、その人と向き合う姿勢は、患者さんやご家族への看護と同じだと常々思いながら教育をしています。

臨床を離れて思うのは、看護師は、患者さんやご家族に寄り添い、支えることができるやりがいのある仕事だということです。患者さんやご家族に寄り添い、その人らしさを支えることのできる看護師を育てたいと思っています。


 その他、地域貢献として、学生とリレー・フォー・ライフ(RFL)に参加しています。RFLは、がん征圧をめざすためのチャリティ活動で、岩手県北上市で開催しているRFLきたかみに学生と共に参加をしています。がんサバイバーの方々や、主催者の方々、様々な会社や商店街の方々との出会いは、刺激となり多くの学びを得ています。


大学教員になってからのがん看護CNSの活動

がん看護CNSの活動として学内のもう一人のがん看護CNSの教員と共に、「いわてがん看護相談ステーション」を開設しました。がん看護に悩む看護師や医療者のがん看護相談を月に1回Webと、現地相談会をがん看護に関する資源の乏しい沿岸部(岩手県大船渡市・陸前高田市・住田町)で行っています。


「いわてがん看護相談ステーション」では、岩手県の病院や施設に勤務する看護師・訪問看護師を対象に、緩和ケアやがん看護の相談、がん看護に関する研修会を行っています。また、件数は少ないですが、患者や家族の相談に応じることもあります。がん患者さんの支援に悩む訪問看護師の方から、「早急にがん患者さんの対応について相談をしたい」と連絡が入り、その日の昼休みに訪問看護ステーションのスタッフ全員とWebカンファレンスを行ったこともあります。このような経験から、Webで看護を語る会や、デスカンファレンスを遠隔で行うようになりました。いわてがん看護相談ステーションを活用してくださる看護師や医療者がいらっしゃることから、いわてがん看護相談ステーションの存在価値を強く感じ、更に活動を広めていきたいと思っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


 

いかがでしたでしょうか?次回は国立がん研究センター中央病院でがん看護専門看護師をされている森文子さんです。お楽しみに!

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