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人生をかけてやりたい仕事 ーホスピス専門NPという道ー

更新日:4月17日

森本彩沙 RN, MSN, FNP-C



カリフォルニア州に渡米して10年が経ち、在宅ホスピス専門のNPとして働き出して4年目を迎えました。日本では家族が訪問介護・看護事業を営んでいることもあり、学生の頃からヘルパー、福祉用具専門相談員、ケアマネージャーの事務、准看護師として訪問入浴、看護師、そして訪問看護ステーションの所長として、在宅介護と看護の分野において一通りの看護系の職を経験させていただきました。在宅介護看護と一括りにしがちですが、対象となる方の幅はとても広いです。心身の障がいのケアから終末期ケア、子供から高齢者までが対象です。グループホームや長期療養施設、自宅といったさまざまな環境で、病院レベルの設備や資金がない状態で最善のケアを考える。そういったチャレンジがある一方で、さまざまな職業を経験したからこそ、その分野における葛藤や働く人の気持ちが理解できると思いました。その強みを活かして在宅看護を専門にしたいと思いました。病院や施設、同じ場所に留まって1日仕事をするのは好きではなく、自分で外に出ていき患者さん宅を訪問する方が楽しく、自分には合っていました。その中でも、ホスピスを専門に選んだのは祖母の影響が大きいと思います。祖母も看護師で最後は「自分の家で自分の好きなことをして死にたい」とよく言っていて、自分がそこを担う仕事につきたいと思ったのがきっかけだと思います。


看護とは別で、海外に住んでみたい、そこで働きたいという希望もあり高校を卒業した後、短大では英文科を専攻しました。看護専門学校を卒業後、日本で看護師として働き30歳の時に渡米しました(NPになるまでの経緯は、以前NIKKEIリスキリングで取り上げていただきました)。再度大学に通いRN免許を取得するまではよかったのですが、就職で意外な落とし穴がありました。アメリカ、少なくともカリフォルニアでは、RN(正看護師)は4大卒でないとまず採用されず、それも急性期病院で働けないとその後のキャリアが開かないという事を知りました。

私はアメリカで看護師の職務経験が無かった為、採用の連絡を受けたのは日系の長期療養施設の一つだけでした。仕事を探している間、ホスピスについても調べてみたら、長期療養施設と訪問看護で働くRNは、それぞれ全体の1割程度でした。その時、「これはチャンスだ」と思いました。自分の本命の分野が人手不足だということがわかったので、言葉や文化が異なる環境でも前向きになれました。無事にホスピス分野に転職して働き出した頃に、NPと触れ合う機会も多くなっていきました。学生の頃に、アメリカで日本人NPの方と知り合う機会がありました。そんな仕事がアメリカにはある、とはわかっていても、自分がその仕事を目指すことになるとは思ってもいませんでした。それでも仕事を続ける中で、訪問看護特有の葛藤はアメリカでも日本でも同じだということに気づきました。もっとケアを良くしていく方法はないのかと考えた時に、RNと比べてさまざまな権限が認められているNPになりたいという考えに至りました。

その頃日本で在宅ケアに関わり出してから15年が経ち、仕事の中でさまざまな気づきがありました。ちょうど長男が産まれ、働き方や今後の人生について深く考えた時期でもありました。家で子供と過ごす時間を多くしたい、自分で働く曜日や時間を管理したい。在宅NPの仕事はその点でも最適でした。ホスピス専門のNPになる事を決めて大学院に進学したのですが、終末期ケアを専門にしたいという人がクラスに他に一人もいなかった為、やはりこの道に進んで間違いはないと思えました。



カリフォルニア州在宅ホスピスNPの仕事は医師(MD)の監督下で、決まった日数ごとに患者さんのアセスメントをしてケアプランを見直し、ホスピスケアが保険適用になるかを見定めることです。医師と事前に決めているプロトコルに従い、相談や報告をしながらケアにあたります。具体的な介入としては、薬歴を見直し、重複していたり効果が見えない薬は調整や中断します。飲み込みが悪ければ経口薬を錠剤から液剤に変えたり、痛みがコントロールできていなければ麻薬の処方もします。必要に応じて、足専門医や傷専門チームへ紹介したり、血液検査やレントゲンのオーダーを入れることもあります。RNやCHHA(介護士)に指示したことが患者記録や薬のリストに反映されていなければ、再度指示を出します。アセスメントに基づきホスピスケアに受け入れるかサービスを終了させるか決めています。ケアが根拠に基づいており医療的に正しいのか、法的に合法か、NPとしての職務範囲を超えていないかなど、看護師として働いていた頃は考えもしなかった視点からものごとを見定める必要があります。いままでは自分の職務の範囲を完璧にすれば良いと言う考えがありました。NPとなった今は最初から最後までのケアの管理だけでなく、事業所の運営や法的な責任にまで視野を広げてプラクティスを行う必要があります。


最初は順風満帆のように感じられましたが、やはりNPの責任は思っていた以上に重く、戸惑いも多くありました。それまでは、看護師として上司から出された指示に従っていれば良く、わからない事はだれかわかる人に相談すれば解決していました。勤務時間も、退勤後は仕事のことを考えずにすむのでワークライフバランスも取れていたと思います。NPは、医師の監督下で、よりマネジメント的な関わり方を取るようになります。全身状態のアセスメントもちろんですが、アセスメントした内容をもとに、どのように介入するべきか、しないべきかを考えまえます。誰に指示を出すべきなのか、そもそもNP業務の範囲なのかなど考えることの幅が一気に広がりました。また、働き方も変わりました。患者さんを管理するということは、勤務時間外であろうが絶え間無く連絡がくるということです。10以上の疾病がついていて、20種類もの薬が出されている患者さんを担当している看護師から「痛がっているから麻薬を出して欲しい」と深夜に連絡がきたとして、どうすべきでしょうか。「わからない」「他に聞ける人は?」などとは言えません。まずはNPとしてスコープオブプラクティスの中で何ができるか、例えば麻薬を処方する前にアレルギーの有無、過去にどんな痛み止めを使っていたのか、現在の痛み止めの内服頻度、麻薬の依存歴の有無などを自分なりに評価してから処方する薬や投与量を医師に相談します。特にアメリカでは、NPの権限が大きい分、法的な責任も課せられているからです。



実際に、自分の責任の重さを痛感したことがありました。患者さんが、ケア内容に不満があるとして、施設やケアに関わっていた全ての医療者を連ねて訴えを起こしたのです。ケアの内容に問題は無かったのですが、それでも患者さんが求める結果とは違ったことが問題でした。

人の役に立ちたい、社会貢献したいと思って始めた仕事でも、そういうことはあるのだと思いました。そうすると、やはりあのときこうするべきだったのか、とかあれは正しかったのだろうか、と自問します。そんな中でも毎日診なければいけない患者さんの数は変わらないし、指示を求めて連絡も受けます。自分のやっていることが本当に正しいのか、と不安を覚えてしまいます。それでも、毎日進むしかないのです。それまでは、人生後悔しないようおもいっきり生きよう!という考えでいたのですが、後悔を教訓にして前に進むこと、ストレスを力に変えることを学びました。今でも緊張感はありますが、以前よりは自分ができることの枠というか、「この患者さんのためにできることはこの範囲内だ」というルールのようなものがなんとなくわかるようになってきて、仕事も自信を持って進められるようになってきました。


死を目前にした患者さんとの関わりから学ぶことが沢山あります。良くも悪くもその人の生き様が現れるのが看取りの現場であり、患者さんと取り巻く人たちが納得してその人らしく亡くなれるよう、医療者として関わる仕事にやりがいと感じます。

在宅での看取りにはその人の個性を尊重するのが大切です。どこでどうやって誰がいる場所で亡くなりたいか?人は亡くなる前にどんなことを考えるのか?死を覚悟した時に多くの人に共通する後悔は?そんなことを考えます。最後を見据えた患者さんは後悔を口にすることも多いです。自分のやりたいことをやらなかったこと、会いたい人に会っておかなかったこと、健康を大切にしなかったこと、してはいけないことをしてしまったこと。いろんな後悔があるなかでも、若い時の後悔は将来に活かせる。一方で亡くなる前の後悔は取り返せない。と思いました。ある日本人の患者さんが、亡くなる前日に、ベッドの周りで介護をしていた家族に「ありがとね」「ありがとね」と言っていたのを思い出し、自分の大切な人を思って「ありがとう」と感謝できる、そんな最後って素晴らしいなと思いました。あなたにとって人生をかけてやりたい仕事は何ですか?という問いに私は在宅でのホスピスNPの仕事と答えます。



患者さんはどうやって人生最後の時を過ごしたいか決める権利があります。カリフォルニアは尊厳死が制度化されて7年経ち、希望する人も増えてきました。人は生まれる時は周りの人に祝福されて生まれてきます。人生の最後の瞬間も生まれてきた時と同じくらい大事な瞬間であると私は思っています。患者さんの人生最後の一ページを、その人が納得して迎えられるような関わりを医療従事者の一人として持てたら幸せだなと思っています。



 

いかがでしたか?来月は千葉県で訪問看護ステーションを経営されている奥朋子さんです。お楽しみに!

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