国立がん研究センター中央病院
看護部 副看護部長
がん看護専門看護師
森文子
こんにちは、国立がん研究センター中央病院の森文子です。このような機会をいただき、何を書いたらいいのかな、と考えながら、結構、これまでの自分のことを振り返ってみたりしていました。今までの人と人とのつながりや温かみを感じたり、懐かしんだり、少し緊張したりしています。すごい目標とか、目指すところとか明確にして歩んできたわけではなかったように思いますが、あまり流れに逆らわず、与えられた役割を自分で気に入るようにやってきたかな、と感じています。ここでは、それを少し書いてみたいと思います。
看護師、CNSの入り口
母が看護師だったので、身近に看護師を見て育ち、生き生きと働く母を見て、「あのキラキラは何?私もそうしてみたい」と思ったことは看護師の種になったようです。看護系大学への進学が決まった時、放射線技師の父に「人の病気がよくなるのはその人の力、医師は治療をするけど、患者さんが自分の治る力を出せるように看護師がお世話をしないと病気はよくならない。そんな大事な価値のある仕事が看護師だ」と、まるでナイチンゲールを語っているように励まされ、これもまた、看護の魅力に引き込まれる入り口だったように思います。
親元を離れて、当時は珍しかった看護系大学に進学し、看護師を目指す同級生や先輩と出会うことになりました。大学時代の同級生たちは、今となっては米国のAPNや大学の教授や講師、専門看護師など、多方面で活躍しています。そのつながりは今でも大切で、たまに会えると看護師としても原点に返り、少し大学での看護の学びを振り返り、元気をもらっています。
そんな自分を育ててくれた周囲の人たちや環境から、看護実践の場に飛び込んだ時、現実の厳しさや課題を痛感しました。若気の至りながら、たくさんの看護の研究や論文はあるけど、臨床現場の出来事とはちょっとそぐわないものなんだな、とか、もっと臨床の現場に研究の成果を取り入れたらいいのにと思ったこともありました。また、日常業務の多忙さから、学校で学んだ看護の大切なことを忘れてしまわないような看護師の教育も大切にできたらいいな、と偉そうなことを考えたこともありました。理想と現実のギャップを思い知った大学病院勤務のころ、たまたま新聞に「がん専門看護師OCNSの近藤まゆみさん」が紹介された記事をみつけ、「これだ!」と感じました。学生時代からがん看護に関心があり、しかも、同じ大学の先輩がこんな活躍をされている、「こんな看護師として働き方もあるんだ!」と、勝手ながら後押しされた気分になりました。臨床と研究のつながりを強め、患者さんのために看護の質を向上させること、そのための看護の意味を伝え続ける教育に貢献することは、専門看護師の大きな魅力に思えました。
がん看護の魅力
大学院では、マーガレット・ニューマン理論を基盤としたがん看護を学び、実践することに取り組みました。たくさん本も読み、仲間や先輩とも語り合ったり、充実した2年間だったと思います。修了後はがん看護にどっぷりつかる覚悟で、現職のがん専門病院に就職しました。大学病院とは比べものにならないがん看護のプロフェッショナルがたくさんいるところで、自分がCNSとして役割発揮できるようになるのだろうか、と思うこともありましたが、全部自分ができなくてもいいんだ、よいケアができる人、知っている人の力を結集させながら、患者さんの力が引き出せたらいいんだと思えるようになったのも、病棟でのたくさんの患者さんとの出会いと仲間との実践のおかげと思います。造血幹細胞移植にかかわっていたので、その分野での施設内外でのつながりも得ることができました。
命をかけて治療に臨む患者さんやご家族の思いを聞きながら、ニューマン理論も生かしながら対話のプロセスをともにたどり、治療や合併症を乗り越える関わりをチーム全体で行うことは、本当にやりがいがありました。そのような臨床経験の中で、患者さんにとっては夢も希望もいっぱいだった「治療をがんばったら元気になる」はずの人生が、必ずしも期待通りにならないこともありました。乗り越えた治療の先に、耐え続けなければいけない障害が残ってしまうことや治療そのものがうまくいかないこともありました。患者さんが受けた治療のその後を支え続けることの重要性、患者さん自身の力が治療のそのあとのご自身の人生の中でもしっかりと発揮されることの意味を考えるようになり、「がんサバイバーシップ」について取り組む機会を得ました。
がんサバイバーシップを支える
「がんサバイバーシップ」は、治療を乗り越えて病気が完治したことだけを意味するのではなく、がんと診断されたときからはじまり、人生の最後までその人の中で続いていくものと言われています。病気の治療さえできればよいのではなく、その人が生きる自分の人生の希望を大切にできる力も同時に得ていけるようにかかわることががん看護には求められていると思います。それを実現するために看護師として、医療チームとしてできることにかかわる機会もいただくことができたのは、職場の上司や仲間、多職種とのつながりや理解、がん患者さんやご家族があったからだと思います。
がん看護専門看護師としての認定を受けたことは、様々な機会を得ることにもつながりました。施設内で行われていたがん患者さんと家族向けのサポートグループ活動に参加する機会もありました。治療の場とは異なる場所で患者さんやご家族が自分自身や周囲の人を見つめなおし、患者さん同士が相互作用する中で、新たな力を見出していく過程は本当に感動的なのですが、それを対話のスキルも使いながら後押しでき、こちらも力をいただいていました。患者さんやご家族など、人には生きる力、希望や未来を信じる力があって、ちゃんと歩みだせるということをわかり合う機会をつくる意義を感じました。
そして、このような当事者同士が関わり合う機会や医師以外の多職種からのサポートを多くの人に受け取ってもらいたいと考え、施設内での患者教室開催や、施設内外の多くの方への情報発信も意図したサポートイベントの企画・実施にかかわりました。膵がん・胆道がん患者さんの教室は、医師を中心としながらスタートしましたが、予後不良の進行がん患者さんの希望も支えながら、これから起こることにも備え考える場となり継続されています。
外来患者さんを対象とした調査結果をもとに、がん患者さんの生活の工夫をまとめたカードを作成したこともありました。これは、施設内の専門看護師・認定看護師が力を合わせ、患者さんの声と専門看護師・認定看護師の視点を組み合わせて、生活の名案をまとめた43種類のカードに育っています。また、この調査結果は、施設の専門看護師チームで様々な角度から分析を行い、研究発表・論文発表につなげることができました。
与えられた役割でできたこと
臨床経験の中でも、これまで何度もめぐってきたのは「教育」の役割でした。離れてもやっぱり役目が回ってくるので、縁があったのだと思います。がん看護専門看護師になってすぐのお役目は「がん化学療法看護認定看護師教育課程」の専任教員でした。約1年、教育課程に出向して、教育プログラムをつくり、主任教員の先生と運営しました。このときの研修生たちも、今や立派なベテラン認定看護師であり、病院の管理者や専門看護師などとしても活躍しています。がん化学療法看護とは何か、とたくさんの海外文献やテキストをレビューして、認定看護師となる人たちと一緒に学んだことも楽しかったと思っています。
「がん対策基本法」が施行された後、国内のがん診療連携拠点病院の医療従事者の教育を行う役割をいただいたこともありました。医師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどと協力し合って、全国のがん医療の均てん化のためにたくさんの研修会を企画・実施しました。この機会には、全国の多くの専門看護師のみなさんにも協力いただき、広いネットワークに助けられたものです。今となっては当たり前の外来化学療法を全国に広げ、質を高く維持するためのチーム研修や、がん専門相談員養成のための研修など、全国の様子に刺激を受けることが多かったです。
長く造血幹細胞移植にかかわってきたのですが、その学会での役割もやりがいがあり、楽しいものです。移植看護に魅せられたいろいろな移植施設の看護師が集まり、移植患者さんのケアについて熱心に考え、新しいことに取り組む風土や多職種チームが自然と出来上がる結束力はすごいなといつも思います。移植後患者さんは、長期的な合併症や臓器障害が継続することが多いので、「長期フォローアップ外来(Long-term follow-up: LTFU)」が重要視されています。がん看護専門看護師になったころ、病棟の患者教育係として、外来診察に同席して退院後のフォローをしたのが始まりです。患者さんの相談対応を行ったり、症状緩和ケアを行ったり、復職や復学の支援をしたり、性機能障害や外見変化の支援を行ったりした記録を質的に分析して整理し、LTFU外来支援の原型ができました。これを情報発信しているうちに、「移植後患者指導管理料」が保険収載され、以来13年間、LTFU外来にかかわる看護師育成のための研修(算定要件になっています)の企画・運営にかかわっています。累積2100名を超える修了者がいることは、移植患者さんの大きな支えになっていくことと期待されます。
学会のお役目で診療報酬改定の際の技術提案にもかかわらせていただいています。看護師が行っている素晴らしい技術が適正に評価されるよう、患者さんにとってのアウトカムやエビデンスをもとに診療報酬に提案するという責任とやりがいのある役割です。大変ですが、研究と実践を結び、評価を得るという専門看護師として重要な役割になっていると思います。
いかがでしたでしょうか?次回は北海道で診療看護師(NP)をされている渡辺大地さんです。お楽しみに!
このような活動をされるNP/CNSが増えてエキスパート看護だけではなく、NP/CNSのアドバンス看護活動も診療報酬に反映されることを願いたい。