藤田医科大学病院 FNP室
診療看護師 谷田真一
診療看護師を志したきっかけ・大学院教育
私は看護師として大学病院の心臓血管外科病棟で2年勤務し、より急性期患者を看たいと思いICUに異動して3年目、一定の看護業務をこなせるようになった頃、患者の病態変化に気づいても医師の指示がないとスムーズに対応できない自分、医師に意見するにも医学的知識が不足してまともに議論できない自分にもやもやしていました。ベッドサイドで患者を最も近くで看ている看護師が、タイムリーな治療提供ができれば患者がもっと早く回復するのではないかと感じていました。そんな時、大学の恩師から当大学院で診療看護師(当時は「特定看護師(仮称)」)養成の試行事業が行われると聞かされ、「これだ」をすぐに進学を決めました。
大学院の一期生は、全国から向上心のある個性的なメンバー8人が集まっていました。1年目の授業の大部分は医学部の医師によって行われ、医学部と同等の教育を行うという方針があったため、生理学や薬理学の講義の難しさにあっけにとられ、理解できないことに不安になるばかりでした。しかし、講義の何倍もの時間、同期での勉強会・自己学習、講師による追加の授業依頼などを行い、必死で勉強に明け暮れ、久しぶりに勉強の楽しさを知ったあっという間に1年でした。今も大学院の恩師に「学んできた歴史が大事なんだ」と言われていたことを思い出します。現在その頃の講義内容の多くは忘れているようにも感じますが、基礎医学の学び方を知り、疑問を解決する方法を学んだことは現在も非常に役立っています。
2年目は臨床現場での実習が中心でしたが、当時は特定行為というものも決まっておらず、「何をやって良いのか?」「何をやらせて良いのか?」「どういう立ち位置なのか?」学生も指導者も現場も完全に手探りでのスタートでした。しかし、何でも学びたい・経験したい一期生は、時間外になっても手術に入り、術後管理を医師と一緒に行っており、よく早く帰るよう注意されていました。
当院の診療看護師
当院では、大学院を修了し、38行為21区分すべての特定行為研修修了、日本NP教育大学院協議会が実施するNP資格認定試験に合格した看護師(FNP:Fujita Nurse Practitioner)が2014年4月より入職し、2024年4月現在38名が在籍しています。所属は病院長直轄でFNP室という独自の部署を設けています。1~2年目は各診療科のローテーション研修を行い、3年目以降は診療科に固定配属となっています。現在固定配置されている診療科は、心臓血管外科・消化器外科・脳神経外科・整形外科・内分泌外科・麻酔科・循環器内科・救急総合内科などです。
心臓血管外科における私の役割
当院の心臓血管外科は、年間380件ほどの心臓大血管手術を実施しています。手術患者の高齢化や複合疾患を抱えたハイリスク患者の増加が進むなかで、チーム医療は必要不可欠です。当院では2017年度より2名のFNPが固定配置となり、現在3名のFNPが心臓血管外科医9名とともにチームの一員として活動しています。FNPの活動場所は外来・病棟・手術室・ICU・HCUと幅広く、術前外来・入院から退院までシームレスに周術期管理を行っています。
どの場所でも仕事はしていますが、私の仕事の主戦場としては手術室です。とはいっても、器械出し看護師をしているわけでも、医師の代わりに助手だけをしているわけでもありません。手術室での主な役割として「手術室看護師・臨床工学技士への情報提供」「手術準備」「手術助手」の3点があげられます。
私は心臓血管外科で行われるすべてのカンファレンスに参加しており、そこで術前検査結果・患者背景・手術適応・術式・手術リスク・人工心肺の確立方法・特別な準備物品など多岐にわたって議論が行われます。私も積極的に議論に参加しており、詳細な手術方法に関して不明な点は、執刀医と適宜打合せを行っていきます。医師と同じ情報を持ち、理解できていることは私が手術に参加する上で非常に大切であると感じています。
そしてカンファレンス・患者・執刀医から得た情報を手術室看護師や臨床工学技士と共有することは私の重要な役割の一つです。器械出し看護師と特別に必要な器材や通常と異なる手順を中心に展開器材や消耗品の確認を行います。日常では麻酔導入中にこれらを行いますが、珍しい症例などでは前日までに手順と器材の確認を行うようにしています。その確認は、器械出し看護師の経験度や習熟度に応じて確認の程度は大きく異なります。経験のある看護師には方針のみ確認し、経験の浅い看護師には糸針のサイズや執刀医毎の手順・物品の違いまで確認するようにしています。
外回り看護師とは術中の患者体位について、インプラント物品が届いていてサイズが揃っているか、術式変更などで使用する可能性のある予備物品が揃っているかなどの確認を行います。また、臨床工学技士とは、人工心肺回路のアレンジ方法や必要な脱送血管のサイズ、手術手順などの確認を行います。
私自身手術室看護師の経験はありませんでしたが、医師と看護師の橋渡しをするためには必要な経験であると思い、FNPになってから器械出し看護の経験をさせてもらっていました。医師は使いたい器材がどのセットに含まれているか、特殊な消耗品がどの棚にあるかなどということは知りません。こういった細かいことまで把握していることで適切な依頼を行うことができ、事前に確認することで手術がスムーズに進み、緊急時も落ち着いて対応ができると考えています。
手術準備としては、必要な画像の提示・麻酔補助・体位作成・剃毛・術野消毒・ドレーピングなどを行います。すべてのことを毎回自分で行うわけではありませんが、どの部分でも代行できることによりスムーズな手術開始への援助となっています。
手術助手としては、第二助手を中心に開閉胸や人工心肺確立、止血などでは第一助手を務めることもあります。内容としては、器材の準備・人工心肺回路の準備・大腿動静脈の露出・術者監視下での大伏在静脈グラフトの採取・鈎引・吸引・結紮など多岐に渡っています。術中は術野のみならず、術者の動き・器械出し看護師の準備状況・バイタルサインなど全体を把握し、次の手技を予測した指示を器械出し看護師に出すことで、術者は術野に集中でき、手術が円滑に進むよう努めています。
医師の代わりに手術助手を務めることで、医師は「病棟の患者を診る」「当直明けで帰る」「研究時間を得る」などのタスク・シフティングの効果があると考えています。一方で手術助手を務めていると「医師じゃないのに」などといった批判的な意見を耳にすることもあります。傍から見ると医師の代わりに助手をしているように見えるかもしれないが、私の中の思いは少し違っています。通常第二助手を行っている医師は、助手の役割を担いつつ、執刀医になった場合にどう手術を行うかという学びの場でもあります。しかし、私は執刀医になることはなく、いかに助手を極めるかということになります。1人の手術助手として医師と同等以上の技術提供を行うことは最低限のことであり、それに加えて手術全体のコーディネートを行い、手術の安全性向上、手術時間短縮、看護師教育、若手医師教育などの役割を担う必要があると考えています。
そして私は手術室退室後そのままICU管理を行っているので、術前から術中・術後とシームレスに患者に関わることができ、術前・術中の病態を考慮した術後管理が行いやすい環境にあります。一方、看護師は手術室からICUでの申送りはありますが、術中の病態から術後の注意点まで詳細には伝わらないことが多くあり、そこで、術後管理を行いつつ、ICU看護師への情報提供の役割を担うことで医師と看護師の繋ぎ役になっていると思っています。
VAD患者との関わり
もう1つ私が積極的に関わっているのが、補助人工心臓(VAD:Ventricular Assist Device)を装着した患者さんです。私が心臓血管外科で働き始めたころには、VAD治療は取り入れられていませんでしたが、その後体外式VAD治療が始まり、現在は植込型VAD治療も開始されました。
当初の植込型VADは心臓移植を待機する目的(BTB:Bridge to Transplant)で装着されてきましたが、近年はVADで一生を終えることを目的(DT:Destination Therapy)としてVADを装着する選択肢もできてきました。いずれの患者さんもVAD無しでは生命維持が困難な状態で手術を受けられることになります。患者さんは生命の機器に直面し、器械に生かされていると感じるなど精神的に不安定になる方も多くいらっしゃいます。そこで、病棟から手術室・ICU・病棟、退院後の外来までシームレスに関われるFNPの存在は患者・家族の安心感につながると言っていただけています。
また、これまでは入院しての治療継続が必要でしたが、植込型VADを装着することで自宅での生活そして社会復帰が可能となりました。しかし、手術を受ければ自宅に帰れるという簡単なものではありません。自宅に帰るためには何でも自己管理できることが必要です。機器の扱い、ドライブライン刺入部(体内に植え込まれたポンプと体外のコントローラー及びバッテリーとをつなぐケーブルがお腹から出ている部分)の消毒、シャワー浴の方法、緊急時対応などを本人だけではなく、家族も一緒に学び、試験に合格する必要があります。私はこれらの教育を臨床工学技士とともに行っています。そのために人工心臓管理技術認定士の資格も取得しました。
患者教育は看護師が得意とする分野でもありますが、VAD患者の場合、経過の中で心不全の悪化やドライブライン刺入部の創トラブルを合併することが多くあり、そこで治療介入を同時に行い、またその状況に合わせた教育を行っていくことができるFNPはVAD患者管理において最適であると感じています。
まとめ
当院では病院執行部の関心もありFNPが早期に導入されました。しかし、院内でもFNPに対する周知や役割決定、カルテ権限の拡大などについてはかなりの時間を要し、現在も模索・改善している最中です。現在法的根拠は「看護師の特定行為に係る研修制度」のみです。特定行為に注目される機会が多い本制度ではありますが、FNPが実際に特定行為を行っている時間はわずかであり、臨床現場ではカルテ代行入力や直接指示下の医行為も組合せた医療の提供を行い、チーム医療の一員として職種間の繋ぎの役割を担っています。
特定行為を看護師が行えることで一定のタスク・シフティングの効果はあると思いますが、より医療安全・患者満足度・治療成績の向上を図り、タスク・シフティングを行うには医師・看護師双方と連携した診療看護師のような中間職種の存在が必要だと考えています。そのためには、質の担保のため大学院教育が必須であり、卒後教育の充実も必要だと感じています。
このような業務を行っていると、「看護師なのに」「PA(Physician Assistant)じゃないか」「医師の働き方改革で看護師にメリットがない」などといった批判的な声を聞くこともよくあります。(これは、実際に一緒に働いているスタッフからではなく、少し離れたところにいるスタッフ・上層部からですが…)実際に、医師の代行で行う仕事も多くあり、医師からのタスク・シフティングの効果は出てきています。しかし、それだけでなく看護師にとっても、治療方針や疑義をすぐに確認できるFNPの存在は、医師が病棟にいないストレスを軽減、次勤務者への積み残しや残業時間の減少といった効果があります。
FNPにしかできない役割は非常に少ないです。しかし、幅広い知識・技術と情報を持つことで、どの部分でも求められる時には代行できるという「痒い所に手が届く存在」になることが大切だと思っています。そしてこれらによりタイムリーな治療介入を行うことは患者中心の医療提供となり、これも看護であり、これこそチーム医療であると考えて日々仕事しています。
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