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こどもの育ちの環境を豊かにする看護師を増やすために 認定看護師の養成

鈴木千琴 小児看護専門看護師

認定看護師教育課程 小児プライマリケア分野 主任教員



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私の小児看護との出会いは、「いないいないばぁ」です。学部教育の小児看護の演習の中で、「いないいないばぁ」を喜ぶ月齢とそうではない月齢があることを教員に教えてもらいました。その後実習で、実際のこどもの発達する力を感じ、魅了され、小児領域の看護師になろうと決意しました。また、学生時代から小児がんや障害をもつこどもたちのサマーキャンプのボランティアに参加していました。障害や病気の有無に関わらず、こどもがともに遊び、ともに寝て、ともに食べる、こどもたちでの関わり合いで見せるこどもの表情は、大人との関わりのみではみられないこどもらしさがある姿でした。この頃から、こどもが子どもの中で過ごす場を大切にしたいという思いが芽生えました。

 

 

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学部を卒業し、大学病院の小児病棟で約10年勤務しました。固形腫瘍や先天的な消化器や循環器疾患を持つこどもたちを主に看護していました。今は医療的な配慮が必要なこどもたちを含め、こどもが保育所や学校等で過ごせる配慮をすることが国や地方自治体の責任として法律に明記がされ、様々な取り組みがされています(まだまだ法律に見合った体制整備には課題はありますが)。当時は、こどもに「車椅子が必要」となるだけでも、親の付き添いが求められることもありました。治癒が難しい状態のこどもが学校に行きたいと願って親が学校に伝えると、「具合が悪い状態で学校に来る必要があるのか。何かあったらどうするのか」と言われてしまうこともありました。当時は私自身、病院の中から退院していくこどもたちという視点からしか考えられておらず、病院で治療を頑張ったこどもたちが地域で当たり前に暮らせないことへの憤りと無力さを感じていました。そんなもやもやを抱えていると、学生時代から参加しているサマーキャンプで出会い小児看護専門看護師の大先輩に出会い、「迷ったら時間とお金をかけてみたら」と背中を押され、小児看護専門看護師を目指し、聖路加国際大学の修士課程上級実践コースに入学しました。

 

 

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大学でのコースワークの中で、自宅で暮らし、様々な支援者に支援を受けながら生活するこどもたちを知る機会がたくさんありました。特別支援学校の教員とともに自宅への訪問教育に同行したことがあります。訪問した先は、少しの刺激が発作を引き起こしたり、体温も低下しやすかったりと体調が安定しない重症心身障害児のお子さんでした。玄関に入る前、学校の先生は「よし!」と気合を入れる姿を目にしました。後に話を伺うと、「彼女と接するのは、体調のことも大丈夫か、不安でとても緊張する。でもこどもにそれが伝わってはいけないから、いつも入る前は気合を入れる」と話してくれました。そして、その先生が気づくこどもの些細なサインは、医療という場では決して見えなかったこどもの姿です。これらの経験を通して、大学院に入る前は「地域にもっと病気を持つこどものことをわかってほしい」と思っていた私自身の考えは大きく変わりました。医療の専門職であるかどうかに関わらず、病気や障害を持つこどもを支える多くの人達がいること、医療という守られた場ではないところでこどもの命を守りながら、一人ひとりのこどもが育つ環境を作っていることを知りました。こういった経験から、大学院修了後は病院には戻らず、保育所で看護師として活動を始めました。保育所を選んだのは、病気や障害の有無に関わらずこどもたち全般のケアをしたいと思ったこと、病気や障害があってもなくてもともに過ごせる場を作りたいと思ったからです。私は保育所での実践を基盤に、2016年に小児看護専門看護師の認定を受けました。今は医療的ケア児への関心の高まりからも、保育所で看護師が働いていることの認知は高まっています。しかし、当時は保育所で働く看護師は「病院にちょっと疲れてしまった人」という印象を持つ人もいて、「専門看護師なのに保育所なの・・・?」と言われることもありました。悔しさで涙を飲んだことも多々ありましたが、私が保育所で活動することを応援し続けてくださったのが、修士課程の恩師及川郁子先生でした。

 

 

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保育所で働き始めると、わからないこと、戸惑うことだらけでした。感染症対策一つとっても、保育職との認識や価値観の違い、またこどもたちが集団で生活する中での対策に頭を悩ませていました。当然ですが保育所に医師は常駐しておらず、私が唯一の医療者であったため、こどもの体調やけがに対して判断を求められることも多く、「この判断・対応で良いのか」と迷うことも多く、責任の重さを感じていました。保育所で働き始めた当初は、仕事が終わると毎日のように大学や地元の図書館に通いわからないことを勉強していました。

 保育所での実践は、病気や障害があるこどももないこどもも対象とし、集団の中での健康支援や安全管理、こどもたち個々の発達を捉えたケアなどが主でした。こどもへの見方は保育士と看護師では異なることも多くあります。その違いを価値のぶつかり合いとするのではなく、お互いの良い点を学び合う環境を作っていきたいと思い、保育士や保育補助者、栄養士と話し合うことを重ねました。修士課程で自らの実践の意図を言葉にすること、実践の意図を他者に伝えられることを繰り返し訓練されたことがここで実践としてとても役立ちました。自分がどう考えているかを他職種に伝えていく努力をすると、相手も考えを伝えようとしてくれます。保育所で対象とする乳幼児は言葉で自らを表現することには限りがあります。そのため、周囲の大人がこどもの発している様々な思いを受け取ることが必要です。だからこそ、日々それぞれの職種が見たり関わったときのこどもの様子やその関わりの意図を言葉にすることで、他職種との関係性が深まりこどもたちが安心して過ごす場を作っていけたのだと思います。保育士や栄養士の気づきと看護師の私の見立てをあわせることで、隠れていた病気が見つかったり、感染症の拡大を防いだことも多くあります。こういった他職種と協働する中で、働き始めていた当初に感じていた医療職一人の重圧は徐々に軽減していきました。

当時、私が勤めていた保育所では、医療的ケア児の入所はありませんでした。その頃は児童福祉法の改正があり(2016年)、社会の中で医療的ケア児という言葉が広がり、保育所等でも受け入れが少しずつ進んでいました。そのような社会の動きについて、とても信頼していたベテランの保育士と医療的ケア児の受け入れについて議論をしたことがありました。その際に「鈴木先生(私)がいるなら受け入れたいと思う。でも今まで一緒に働いてきた看護師が必ずしも頼れたわけではないから、誰でもいいわけではない」と言われました。私一人が頑張ってもこどもたちが育つ環境を作っていけないことを痛感すると同時に、保育所等は施設に看護師が1人いれば良い方という現行制度の中でどのように看護の質を向上していくのか、その壁にぶち当たりました。保育所への看護師配置は今でも義務化されておらず、地方自治体の采配に任されています。看護師1人を保育士としてみなしてもよいという制度があり、看護師として採用されても保健活動に時間を費やせず、保育補助の業務が優先され、看護師としての役割がわからず早期に離職してしまうケースも少なくありません。こういった状況の改善には、教育と制度へのアプローチ両輪が必要だと感じました。そういった現場の教育や制度そのものを研究というアプローチで変えられないか、次のステップを目指し博士課程に進学しました。

 

 

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博士課程に在学中、その後の進路を迷っていたときに、現在の小児プライマリケア認定看護師教育課程の主任教員のお話をいただきました。私が大事にしたい地域を見据えていた教育課程であったことから、迷わず就職することを決断しました。2019年に日本看護協会が認定看護師制度の再構築をし、小児領域は小児救急看護認定看護師から、救急場面だけに特化せず幅広くこどもに関わる看護師の養成を目指し、名称変更がされました。カリキュラムも特定行為研修や医療的ケア児の看護やケア調整といった新たな内容が多く含まれています。プログラムを運営するうえで、地域でのこどもたちの生活を見据えられるよう工夫しています。地域の様々な多職種の講義を取り入れ、自部署からだけでは見えない場所で、こどもを支える支援者の実践や思いを知ってもらえる機会を作るなど、。

当院は、全国で唯一の小児プライマリケア認定看護師教育課程のため、北は北海道、南は九州と全国各地から研修生が来ています。1年で学ぶにはとても多い学習量で過密なスケジュールであり、研修を受ける受講生もそれを伴走する教員も毎日全力疾走です。専門看護師として認定看護師教育に携わる中で、指導という一方向ではなく、共同学習者として教員も含め互いに学ぶ姿勢を大事にしています。研修生が持つこれまでの経験は、それぞれの施設で奮闘してきた軌跡があります。その経験に知識や理論を付与しながら、深化させるために言葉にしながら向き合うことが、経験を超えるプロセスではないかと思っています。研修生が自らのこれまでの実践と向き合い、捉え直すプロセスは、心がゆらぎ、葛藤を抱くことも多いです。小児看護への思いが熱い研修生ほど、そのゆらぎは強く出てくることもあります。そういった研修生のゆらぎや葛藤と向き合うことはお互いエネルギーがとても必要です。私自身も、専門看護師を目指した修士課程やさらなるステップを目指した博士課程は自らの看護師としてのアイデンティティがゆらぎ、苦しさがありました。そのプロセスに向き合い続け、自分で答えが見出だせるまで伴走してくれる恩師らがいました。こういった私が受けた教育の経験が今活かされていると感じています。認定看護師の養成は大学院教育ではなく、1年という短い期間での教育です。できることに限りはあると理解しながらも、現場に戻って様々な役割発揮を求められる研修生が、自律した実践家として、そして現場の看護の質を向上していける人材として活躍できる道筋を作っていけたらと思っています。

 


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これからの小児看護、そしてこどもの未来のために様々な現場での経験を持つ研修生と対話する中で、今の小児看護の課題、そして未来を考えることが多くなりました。日本の少子化に歯止めが効かず、こどもは減り続けています。医療現場では、小児病棟が減り成人との混合病棟が増えています。「大人の中で埋もれるこども」の声を感じ、拾い上げ、子ども一人ひとりへケアを行き届かせることが小児看護を専門とする者として求められているのだと感じています。その声を感じる人、さらにこどもが育つ地域を創る一員となる看護師を一人でも増やしたい、そう願いながら教育を続けています。

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