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臨床の「なぜ?」を力に―実践と研究を往還するAPNとしてのあゆみ

生協浮間診療所・千葉大学大学院看護学研究院

診療看護師(NP)

後藤智美


はじめに


このたびは貴重な機会をいただき、心より感謝申し上げます。後藤智美と申します。私は現在、東京都北区にある生協浮間診療所で、診療看護師(NP)としてプライマリ・ケアの現場に携わりつつ、千葉大学大学院看護学研究院で高度実践看護や専門職連携に関する研究をしています。このコラムでは、私のキャリアの原点となった臨床における「なぜ?」を原動力に、実践と研究を往還することを目指すAPNとしての歩みと、その中で見出した魅力についてお話したいと思います。この記事が、APNの認知度向上や、これからAPNを目指すかた、既に現場でご活動されているAPNの皆様とのつながりの一助となれば幸いです。


NPとの出会いと臨床の「なぜ?」


私が初めてNPという存在を知ったのは、学部生時代の米国コロラド州への短期留学でした。自律的に活動を展開するNPの姿を目の当たりにし、「こういう看護師のキャリアもあるのだな」と強く心に残りました。この時の原体験が、私のキャリア意識の根底にあるのかもしれません。そして、その意識が明確な問いに変わったのが、看護師として総合病院の内科病棟で働いていた頃です。退院してもすぐに再入院してしまう場面に多く直面するなかで、「患者さんの退院後の生活はどうなっているのだろう?」「入院前から関われたら、何か違ったのではないか?」という問いが膨らんでいきました。患者さんの暮らしや背景を知るために、家族ケアや在宅医療への関心が強まっていた時、知人を通じてプライマリ・ケアという分野を知り、縁あって現在勤務している生協浮間診療所を知りました。診療所では、既卒の看護師向けの2年間の研修プログラムを独自に始めており、私はスタッフとして外来・訪問診療・訪問看護に携わりつつ、法人内の地域包括ケア病棟や緩和ケア病棟でも研修を受けさせていただきました。患者さんを「送る側(診療所)」と「受ける側(病院)」の双方の視点を培うことができたこの2年間は、私の看護職としての土台を形作るものとなりました。特に、専攻医と同様に事例報告をポートフォリオとして作成するプロセスを通じて、理論や枠組みに沿って思考し、言語化するスキルを習得していきました。


NPになるまで

所属法人での研修を経て、プライマリ・ケアの現場に本格的に携わるなかで、私は病院

とは質の異なる新たな壁に直面しました。病院と異なり、診療所ではまだ診断がついてい

ない状態の患者さんや、医学的な問題と生活の問題が複雑に絡み合った患者さんと関わる

機会が多くあります。多職種の価値観がぶつかることもあり、何が正解なのかわからず戸

惑うことも多くありました。特に自分のアセスメントスキルの不足を痛感し、もっと根拠

を持ってケアにあたりたいという思いが強くなり、診療所の医師、看護師長の理解と応援

にも背中を押され、プライマリ・ケア領域のNPコースを擁する大学院へ進学しました。

大学院では、臨床での「なぜ?」を答え合わせするような学びの機会も多く、治療やケ

アの根拠を徹底的に学ぶ日々でした。この経験が、現在の私の実践の支えとなっています。


NP外来の展開


修士課程修了後、私は再びもといた診療所に戻りました。実践に対するフィードバックを医師から直接得られる環境があり、プライマリ・ケアの現場でこそNPコースでの学びを活かせると考えたためです。

生協浮間診療所では、地域住民に対してかかりつけ機能を果たすことを目指しており、小さな子どもから高齢者まであらゆる世代の方との関わりがありますが、近年では、医療面でも生活面でも複雑なケアニーズを有する高齢者が増加しており、特に糖尿病や慢性心不全、認知症など複合した慢性疾患を有する患者さんが急増しています。私は上司と相談のうえで、このような患者さんを主な対象としてAPNが介入する必要があると考え、医師との協働を前提としたNP外来を立ち上げました。

NP外来では、医師の診察前に介入が必要と考えられる患者さんに対して、1人15分から

30分ほど時間をかけて予診を行い、アセスメントした内容や検査・処方計画を電子カルテ

に仮入力します。患者さんはその後、医師の診察室に呼ばれ、医師は私のカルテ記録と仮

入力されたオーダーを確認し、内容を承認・確定します。この協働により、患者さんは2

つの専門職の視点から介入を受けることが可能となっています。

NPとして日々実践する中で、私が特に大事にしているのは手付かずの問題に着手できる

ようにすることです。例えば、褥瘡予防、転倒予防、低栄養予防といったリスクを未然に

防ぐアプローチ、あるいはバルンカテーテルの抜去や漫然と続いていた緩下剤の中止の検

討といったQOLを向上させるアプローチです。これらは高齢者の尊厳に直結する重要なケ

アですが、多忙な外来では後回しにされがちです。NPとして課題を捉え、多職種と目標を

共有してケアを動かしていくことにも、NPとしての役割があると考えています。


APNとしての実践がもたらす効果


NP外来を開設して実感しているAPNになってよかったと感じる効果は、大きく3つあります。

一つ目は、ケアの継続性の強化です。医師のみならずNPも疾病管理に携わることで、患者さんからは「ここの皆は自分のことをよく知ってくれている」というお声をいただくことが増えました。かかりつけ機能を果たすべく、チーム全体で患者さんを支える意識が患者さんにも伝わったと考えています。

二つ目は、患者さん自身の治療に対する主体性の向上です。NP外来では、患者さんのラ

イフスタイルや意向を丁寧に伺う時間を確保しています。当初は医師にお任せのスタンス

だった患者さんであっても、対話を重ねるうちに治療に対する自身の意向を積極的に話し

てくださることが増えるようになりました。患者さん自身の治療に対する当事者意識の高

まりの表れであると考えています。

三つ目は、診療の質と効率の担保です。私が比較的状態が安定した患者さんに関わるこ

とで、医師は綿密な医学的管理が必要な患者さんの診察に時間を割けるようになりました

。これは診療所全体の診療の質を向上させる上で、大きな効果だと感じています。

またこれら以外にも、看護職のメンバーとの関係構築にも注力しました。当初は「NPに

何をお願いしたらいいのだろう」という雰囲気もありましたが、臨時対応や検査結果の解

釈など、看護師が判断に困る場面でサポートすることから始めました。現在では、私が外

来全体の動きを見ながら看護師へ患者さんの情報を共有することで、チームが円滑に機能

できるような調整役も担っています。看護師自身が包括的に患者さんを捉え、チーム全体

の力量を高めることにもつながっていると感じています。


実践と研究の往還


私のキャリアの原点でもある臨床の「なぜ?」は、現在の私の新たな原動力となっています。それは実践をエビデンスにし、再び実践に還元することです。プライマリ・ケア領域におけるNPの実践は、目に見えてわかりやすい劇的な変化が起こることは少ないかもしれません。しかし確かに病状の悪化を未然に防ぎ、患者さんのQOLを支えていると考えており、この目に見えにくい価値を客観的に示し、発信していくことの重要性を痛感していす。その想いから、現在、私は千葉大学で実践と研究の往還を本格的に進めています。NP個人の実践知を形式知化することはもちろん、日本でAPNがさらに発展するためには、一施設の取り組みに留まらず、より大きな枠組みでの効果検証が不可欠だと考えています。例えば、APNが保健医療専門職のチームのなかでどのような臨床判断を行い、それが患者さんのアウトカムやケアの質にどう貢献しているのか。また医師と看護師の臨床判断にはどのような共通点や相違点があり、それをどう連携に活かすのか。こうした臨床現場の問いこそが、研究の原動力となっています。

実践での「なぜ?」を研究テーマとし、そこで得られたエビデンスを再び臨床現場に還

元することで、看護全体のボトムアップに貢献することが、私の目指すAPNとしてのあゆ

みです。


おわりに

APNは、決して一人で成り立つ存在ではありません。医師をはじめとする多職種と協働

し、患者さんの暮らしを支えるチームの一員として機能することで役割を果たすことがで

きると考えています。今後も臨床現場で生まれる問いを大切に、実践と研究を往還する

APNとしてのあゆみを続けていきたいと思います。

またこのコラムが、APNという仕事の多様性と奥深さを知っていただく一助となり、全

国で活躍するAPNの皆様と新たにつながるご縁となることを心より願っています。ご清覧

ありがとうございました。

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