生活に伴走する在宅看護専門看護師として実践と研究を往来する~様々な活動を通して思うこと~
- society4japn
- 2月16日
- 読了時間: 10分
井村 春香
在宅看護専門看護師
にじのはな在宅看護センター 訪問看護師
広島大学大学院医系科学研究科 博士研究員

高度実践看護師になって早5年が過ぎようとしているタイミングで、このご依頼を頂戴し、これまでの振り返りとこれからを考えるとても良い機会に感謝申し上げます。看護師を目指したきっかけから現在に至るまでをお示しし、看護師を目指す方やAPNに興味がある方、またこれからAPNを目指してみようという方へ、何らかのヒントとなれば幸いです。
何者でもない自分への焦り
看護師としてある程度独り立ちした3年目を過ぎた頃から、「まだ何者でもない自分」への漠然とした正体のわからない焦りがありました。
とにかく何かインプットしないといけないという強迫観念に駆り立てられ、毎月休憩室に届く雑誌や学会情報を手に取り、その時に特集されている「口腔ケア」や「ポジショニング」、「呼吸ケア」、「摂食嚥下」等の技術を見様見真似で病棟の患者さんに実践してみるも、その割に一つのことを極めず、一過性のブームで終わってしまう、そんな日々を過ごしていました。またこの時期は、興味の赴くまま様々な場所へ足を運びました。脳神経看護学会への参加を皮切りに、学会になら私の求めている何かがあるかもしれない!と思い、そこから憑りつかれたように、小児科で働いたこともないのに小児看護学会へ、保健師の資格すら持っていないのに公衆衛生学会へ、診療報酬のことが知りたくなって看護経済・政策研究学会へ等、様々な学会や研究会に参加していました。
そんな日々の中で、これからの医療は極端な二極化をしていくのでは?という考えに至りました。少子高齢化が増々加速する日本において、これからも税金を納めてくれる世代への高度急性期医療と、その一方でたくさんの高齢者に対しては高度な治療より穏やかに過ごすためのケアが提供される、のではないかと考え、自分はどちらならできるか、どちらに身を置きたいかと考えた際に、モニターの音が鳴り響き、救命の切迫感はどうも自分には合わないと思い至りました。
そう考え至ったら何かすぐに動かなくては気が済まない性格上、在宅医療等を手掛ける療養病院へ転職を決意しかけた頃、それを見かねた病棟医が、「本当にそこで働きたいと思っているの?何か本当にやりたいことがあるんじゃないの?」と声を掛けてくださりました。
在宅看護の門戸を叩く
当時24歳の私は、自分の本当にやりたいことは何か考えた末、東京に住んだみたいというミーハーな夢を思い付き、研究会等が盛んな東京には、何者かの答えがある!と安直に考え、東京へ引っ越し。病院で働くことに疲れ切っていたため、学生時代に楽しいと思えた数少ない実習先である訪問看護で働いてみようと決意し、知り合いの紹介で世田谷区の訪問看護ステーションで勤務することになりました。
3か月が過ぎた頃、管理者より「訪問看護やってみてどう?」と聞かれた際に、家族の愛で生きている人に感動し、その愛が破綻した行く末が気になる、と答えると、どうなると予想するか尋ねられ、その場で①本人家族諸共野垂れ死に、②入院する、③施設に入所すると考え、①について人が死ぬのはそう簡単ではない、②当時から在院日数も極端に短い、③やっぱり施設か、という返答をしたところ、「じゃあ、見に行ってみたら?」という管理者の言葉から、平日は訪問看護、週末は有料老人ホームで日勤という生活となりました。
これまで病院の看護しか知らなかった私は、自宅等の住み慣れた環境で生活する人の不安もゼロではないが穏やかで気ままな暮らしに感銘を受け、そして施設ではそこを姥捨て山と呼ぶ入居者へも尊厳を大切にしながらケアをする姿勢に甚く感動する日々。中でも、在宅とうい環境は生活がよく見えるため、ケアの受け手であるご本人の生活に伴走する看護がとても大切であることを学びました。
そんなある日、日本赤十字看護大学 現名誉教授の筒井真優美先生と出会いました。筒井先生は「今の臨床はクレイジーだ(忙しすぎて看護師が本来のケアの仕事に十分な時間が割ける状況でない)から、そんな現場を変革するのはCNS(専門看護師)しかいないと思うわ!」というお言葉を聞き、またも安直に感化されCNSコースへの進学を決意。老年か在宅看護かで迷いましたが、これからは在宅の時代!と様々な先生から背中を押して頂き、在宅看護専門看護師になる決意をしました。
大学院への進学
修士課程での2年間はほとんど蓄えが無かったので、応急診療所、老健施設、訪問看護、ファミリークリニックを掛け持ちでアルバイトしながら大学に通う日々でした。大学院での学びは、小児やがん、母性、老年看護等の他領域の同級生と学ぶ日々でとても刺激的で、また学んだことを現場で早速実践してみる、ということが可能で、とても充実していました。
修士2年生となり就職を検討する際に、修士の間に学問と現場を往復し、様々な課題が見えてきたため、もう少し学んでみたいという動機から、またもあまり深く考えず博士課程への進学を決意し、広島へ引っ越し。しかし、博士の道は決して甘くなく、入学当初の研究は涙とともに流れ去りました。それでもこれまで掛けた時間とお金と労力を無駄にしまいと不屈の闘志で研究室を異動し、老人ホームへの心理的適応に関する研究で博士号を取得しました。
在宅看護専門看護師としての活動
専門看護師(CNS:Certified Nurse Specialist)とは、①実践(Practice)、②相談(Consultation)、③調整(Coordination)、④倫理調整(Ethical Coordination)、⑤教育(Education)、⑥研究(Research)、これら6つの役割を通して、よりよいケアをケアの受け手、そのご家族、延いては社会に届け、かつそのケアを組織が実践できるよう変革をもたらすチェンジ・エージェントであると言われています。

CNSではなくてもこのような活動を行っている素晴らしい実践者は確かに存在します。しかし、CNSである私たちは、次の3つの能力を有している集団であると、筆者は考えています。1.俯瞰的視点を持って実践をリフレクションし、現象を言語化する能力、2.臨床的判断と看護実践を融合し、多様なニーズに応えられるケアチームを醸成する能力、3.看護実践とエビデンス・研究結果を融合させ、看護学の向上や発展をもたらす能力です。
これらを踏まえて私は、自分の活動をⅠ実践、Ⅱ教育、Ⅲ研究を軸に分けて考え、活動を組み立てています。ここで私の活動の一部をご紹介したいと思います。
Ⅰ実践では、私は広島市中区に在中する訪問看護ステーションの非常勤職員であり、また広島市立特別支援学校の中にある放課後等デイサービスの非常勤職員であります。実践では、ご本人や本人を取り巻く支援者へのダイレクトケアのみならず、「ご本人の生活に伴走するために、観て、聴いて、触れて、同じ空間や感覚を共有しながら、本人を含めたチームは困っていないか」というアンテナを立てながら活動しています。日々私たち支援者は、よいケアを届けようと一生懸命働いています。何か上手くいかない、嚙み合っていないことがあったとしても、誰かに悪い影響を与えようと思っている支援者は一人もいません。そうした際に、外野からこうした方が良い等といった発言は、日々懸命に働いている支援者の存在を蔑ろにし兼ねません。そのため、よりよいケアを届けるためには、同じ空間や感覚を共有しながら、今何が起こっているのか観察し、課題を特定し、その解決や穏やかな方向へ向かうための方略を時に理論を用いながら、現場で対話を通した実践をしていかなければいけません。その際には、実践(Practice)のみならず、相談(Consultation)や調整(Coordination)、倫理調整(Ethical Coordination)を組み合わせ、またそれらの知見を形式知にするために、実践を言語化し、演繹的にまとめ上げた研究成果としての視点を持って実践することが重要であると考えています。
Ⅱ教育では、大きく分けて2つの活動を展開しています。1つ目は現任者教育として、在宅ケア従事者向け研修会を2023年から実施しています。この目的は、事業所に依頼をくださったケアマネジャーや医師の期待に応える看護師を育て、日々現場で頑張っている方々へ「明日の実践に早速役立ち、そして明日からも頑張ろう!」と思って頂ける研修会を作っています。私は主催していますが、自分が学びたい・話を聞いてみたい講師の先生をお招きし、参加者と共に学んでいます。そして2つ目は基礎教育として、広島市医師会看護専門学校で在宅看護の授業を担当しています。基礎教育では、これからどんな看護師になろうかと考えている学生さんに対して、「地域で働く看護職の役割・重要性・楽しさ」を伝えることに注力し、病院以外の場で提供される看護について知ってもらう、あわよくば興味を持ってもらえるよう心がけています。
Ⅲ研究では、現場で自分が体験したことから湧き上がる現象を研究という方法を用いて、改善に向かうよう明らかにできればと考えて取り組んでいます。私は2つの研究テーマを持っています。1つ目は高齢者施設入居者のリロケーションダメージ低減に関する研究、2つ目は救急外来受診後、非入院帰宅患者への療養支援に関する研究です。

1つ目の高齢者施設入居者のリロケーションダメージ低減に関する研究では、高齢者施設で勤務する中で、入居者にも施設に適応している方とそうではない方がおり、その違いは何か?という疑問からスタートしました。先行研究では、自発的な意思で入所した人は適応していることが明らかになっていますが、今の日本における在院日数の短縮化や家族介護の脆弱化を鑑みると、必ずしも自発的に入所できる人ばかりではなく、自宅への退院が難しく致し方なく入所される高齢者が多くおらます。医療制度や世帯構成の変化という制約の中で、何に取り組めばリロケーションダメージは低減できるか考えた際に、A.I.メレイス先生の移行理論から着想を得て、「入所前の準備が入所後の適応に関与する」という仮説を立てて、研究を進めました。その結果、仮説は概ね当たり、入所前の準備の中でも見学をしたかどうかが男女共に入所後の適応を促していることが明らかとなりました。
2つ目の救急外来受診後、非入院帰宅患者への療養支援に関する研究は、今まさに広島大学大学院医系科学研究科 講師の寺本千恵先生と取り組んでいます。救急外来から帰宅する、いわば“軽症者”は、全救急搬送の約半数を占めています。彼らの一部は、繰り返し救急外来を受診し、緊急入院や予期せぬ死亡や要介護度が高くなりやすい脆弱な集団です。私がこの研究に取り組むきっかけとなったのは、訪問看護での体験です。担当する利用者さんが身体のしんどさを理由に昼夜を問わず救急要請し、近所の迷惑な人となってしまう一方で、身体のしんどさの裏には心細さや寂しさ、認知機能の低下等が隠れており、救急外来の受診のあり方や在宅ケア従事者間での連携のみならず、病院と地域との連携についても再考しながら、支援のあり方を再構築していかなければいけないと考えさせられました。救急外来の入り口は地域であるにも関わらず、地域との連携はほとんどと言っても過言ではない程ありません。しかし、一部の地域では、救急外来-地域間での連携ができています。また様々な工夫や支え合いが実践されている地域もあります。

私は現在それらのベストプラクティスの聞き取り、インタビュー調査を行いながら、地域に合った救急外来受診後、非入院帰宅患者への療養支援を検討しているところです。
おわりに
こうして振り返ると、私のキャリアは一貫した計画に基づくものではなく、その時々の思いつきや、抱いた疑問、問いに対して、「とりあえずやってみよう」と行動し続けてきた結果であったように思います。
在宅看護専門看護師としての活動も、何か特別な能力によって成り立っているのではなく、生活の中で起きている現象を丁寧に観察し、言語化しながら、ケアの受け手と共によりよいケアを考えながら実践し続ける営みであると感じています。日常の場には正解が一つに定まらないどころか、何を選択すればよいかさえ分からない状況に度々遭遇します。そうした中で高度実践看護師に求められるのは、解を性急することではなく、状況を構造的に捉え、ご本人やその支援者と対話を重ねながら、その当事者が大切にしている生活に伴走し、最適解を探り続ける姿勢ではないかと感じています。
本稿が、看護の進路に迷っている方や、高度実践看護師に関心を寄せてくださる方にとって、「迷いながら進んでもよい」、「現場から問いを立て続けること自体が専門性やAPNとしての自律性になりうる」という一つの視点として届けば幸いです。



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