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高度実践看護師に求められるEB-QI能力とは

朝倉ストレンペック由紀

ナース サイエンティストBaptist Health Academics

AG-CNS Program Director, University of Colorado College of Nursing




看護基礎課程や修士課程のなかで、エビデンス・ベースド・プラクティス(EBP)という言葉をきたことのない人はいないのではないでしょうか。では、実際の実務の中でEBPプロジェクトを実施した経験を具体的に挙げられる人はどのくらいいるでしょうか。なぜEB-QI能力が高度実践看護師(APN)に求められるのか語る上で、EB-QI能力がどのようなものであるかということからお話しさせていただきたいと思います。

ここで、少し私自身の実践についてご紹介させていただきたいと思います。私はアメリカのコロラド大学にて、修士・博士を修了し、主に緩和ケア高度実践認定看護師とナース・サイエンティストという2つの役割で活動してきました。


病院内での緩和ケアAPNとしては、日々エビデンス・ベースド(EB)ケアを提供します。分かりやすい一例ではモルヒネの疼痛や呼吸困難への積極的活用などがあります。グッド・エンディングのための良いケアについての詳しいお話しは、ここで長くなりますので控えさせていただき、EB-QIに戻りたいと思います。

 

ここ20年ほどで多くのEBPモデルや質の向上(QI)モデルが大学院などで教えられていますが、EB-QI能力についてはコンピテンシーの標準化が難しく、20年ほど前から、看護実践博士(DNP)教育が始まりました。私の博士号はPhDですので、研究を独立して行うことができる教育を受けました。これに対して、エビデンスのエキスパート・ユーザーがDNPにあたります。本来であれば、卒後教育や実践を通してEB-QIプロジェクトを行える能力が求められるのです。しかしながら、特にアメリカでのナースプラクティショナー(NP)教育では、医学的診断と治療に大きな重点を置かれるため、システマティックなEB-QIについて学ぶ機会がほとんどありません。これを標準化した教育がDNP教育になります。

ではDNPレベルになるのでなければ、EB-QIプロジェクトを実践できる能力は必要ないのでしょうか。EB-QIにはダイナミックなものから比較的ローカルな病棟単位のものとさまざまです。決して、DNPレベルに特化したものではありません。これまで私自身がDNP、APN、BSNレベルのプロジェクトを指導してきた中で、すべてのレベルにおける多くの看護師による質の高いプロジェクトのの成功例があります。EBPでよく知られるMelnykらも全てのレベルの看護師によるEB-QIを推奨しています。

EBPに理解があるとおっしゃる方々の中でも、やはり新しい薬の使い方などの個人のエビデンスに基づいたアップデートと解釈する人が多いため、この違いについて少し触れておきます。EB-QIはエビデンスに基づいたシステム変革と考えていただきたいと思います。CNSの方々は大学院でシステム・チェンジについて学んだ方も多いのではないでしょうか。


エビデンスの査定と推奨される実践を取り入れる能力


エビデンスを査定しそれが良い研究であるかを検証する方法は大学院教育の中に多く含まれますが、そのエビデンスが特定の実践の場で役に立つかどうかや、ターゲットの患者層や実践に置かれている状況に合っているのかを査定する力がEB-QIのプロセスの中では必要となります。このためEB-QIのための査定項目は、一般の医療用に準備された査定項目では十分ではありません。例えば、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) というツールはシステマティックレビューを行う際に多く使われるツールですが、EB-QIのプロセスでは実践活用性を評価することが必要となるため、このツールでバイアスが少なく良いデザインの研究であるという評価以上の項目を考慮することになります。

良いエビデンスによって推奨される実践を集約するためのプロセスとしてのエビデンスの査定と、実際の病棟やクリニックなど具体的な実践の場で取り入れるエビデンスの評価との違いを見極める必要があります。例えば私が、アメリカのがん看護学会(Oncology Nursing Society:ONS)でエビデンスの評価委員を行っています。ここでは多くの発表された研究を評価し、推奨される実践とエビデンスが十分でない、もしくは有害事象を起こす恐れのある実践に分けるというグループプロジェクトを行っています。評価した実践は赤(推奨しない)・黄(効果はあるかもしれないがエビデンスが十分でない)・緑(推奨する実践)のカテゴリーに分けられて、ONSウェブページに掲載されています(Are You Following the Latest Evidence for Managing Certain Cancer Treatment Symptoms? | Oncology Nursing Society)。これは実践を行う看護師がすぐに個々の患者に使えるようなエビデンスに基づいて推奨される実践を促進する活動です。

これに対しEB-QIはその実践の場にある問題を解決するというシステマティックな活動であるため、多職種協力型のプロジェクトとなる場合も多くあります。実際の例をみると、性質の違いが見えてくるのではないでしょうか。


EB-QIの実際例

EB-QIには多職種、病院など医療のシステム、管理者、電子カルテの変革や、より良い患者のアウトカムを向上するための資材の導入などのような、大きなプロジェクトから、病棟内で看護チームの中で導入実践できる比較的にローカルなスケールのものまで様々です。少し様々なEB-QIの成功例をご紹介したいと思います。


  • EB-QIにより脳梗塞のアウトカムを向上


直接救急外来受信の患者のDoor to CT(DtCT:受信のため救急外来に到着した時間からCTスキャンを取るまでの時間)を短縮することで抗凝固剤の適応の判断が早くなり、患者のアウトカムが改善するというエビデンスがあります。DtCTが20分以内であれば、患者のアウトカムが良いといわれています。これを取り入れるため、脳梗塞を専門とするナースがナースリーダーのサポートを受け、多職種と相談し救急外来にダミー部屋を作ることにより、CTのオーダーをダミー部屋に入力し、待合室から直接CT室へ行くプロセスを作り、救急医やAPPがこの患者に優先して指示を入れるための教育、看護師が優先してCT室へ連れて行くこと、CT室もこの指示を優先すること、などのプロセス構築を行い、患者のアウトカムを向上させました。この評価は、入院日数の減少や、退院場所を分析して患者のアウトカムが向上したことを確認できます。


  • 術後のオピオイド性の便秘をEB-QIで軽減

病棟ナースのグループが、退院3日後のフォローアップの電話で、8割の患者が術後のオピオイド鎮痛剤により便秘が生じていること(看護上の問題)を受けて、EB-QIを計画し実施しました。退院時指導内容にエビデンスに基づいた便秘予防を行えるよう資料を作成。そのうえで、病棟全体の看護師教育により退院時必ずこの教育を資料を使って行うよう徹底、退院パッケージを作る看護助手スタッフに、便秘の予防資料を入れることを徹底するようプロセス構築を行いました。このプロセスの導入により患者の術後の便秘の罹患率を30%軽減することができました。看護師でオピオイドの副作用としての便秘があるという知識のない人は少ないでしょう。この例は日々の効果的な実践は単なる知識不足ではなくEB-QIのプロセスを効果的に活用することによって患者のアウトカムが向上することができる良い例ではないでしょうか。


  • 2時間ごとの体位変換で褥瘡を減少


2時間ごとに体位変換すればHAPI(院内発生褥瘡: Hospital Acquired Pressure Injury)が大きく減少することは多くのエビデンスにより分かっています。しかしながら褥瘡の危険の高い患者に対し実際に2時間ごとの体位変換を正しく行うことは難しいことです。実はこのような例が正にEB-QIの絶好の機会なのです。2時間ごとの体位変換が良いというエビデンスがあるにもかかわらず、体位変換が行われないというのはなぜなのでしょうか。ここには複雑なエビデンスに基づいた実践を行うことができない環境があるからです。ではそれが行えるようにするためにはどうするのが良いのかというプロセス構築とその実践を取り入れることがEB-QIとなります。この看護チームは、EB-QI 実例文献から、HAPIの危険の高い患者をシフトごとに把握し、午前7時、9時、11時のように24時間体制で定期的に決まった時間の体位変換の対象者へ、時間の担当看護師が看護助手とともに体位変換を行うQ2ターンチームというものを取り入れました。またBraden Scaleという以前から電子カルテに取り入れられていてHAPIの危険度をシフトごとに行う記録を強化し、これを活用してどの患者に2時間ごとの体位変換が必要かを把握するプロセス、誰がどの時間に体位変換を行うかという担当を毎日誰が決めるのかを徹底して行うプロセスの構築と導入も行いました。そこで2時間ごとに実践が行われているかの確認(Audit)の方法も確立することにより(プロセスアウトカムの評価)、この実践とHAPIの減少(患者のアウトカム)の相関を評価しました。これによりエビデンスに基づいた実践が可能となり、患者のアウトカムが向上したと評価されました。アウトカムの評価については、少し後にお話しさせていただきます。

その他にもナースプラクティショナー(NP)により、幹細胞移植後のGVHD(移植片対宿主病)の治療で使用した患者のステロイドの処方量とTaper down(減量し中止していく)の方法が標準化していないことを受けてエビデンスに基づいたTaper Downのオーダーセットの導入を行った例などもあります。ここではエビデンスに基づいたオーダーセットを導入するにあたりQIのプロセスであるPDCA/PDSAサイクルなどのQIの手法を使いました。


アウトカムの評価

ここまで、EB-QIを始めるところから実践に取り入れるところまでをお話ししました。EB-QIのためのエビデンス査定の違い、プロセス構築と導入によるシステムチェンジが体系的に行わなければならないことが少しお分かりいただけたのではないでしょうか。ここで更に大切なところは、EB-QIを行いアウトカムをきちんと評価できることです。アウトカムには2種類あります。プロセスアウトカムと患者アウトカムです。プロセスアウトカムとは、導入したエビデンスに基づいた実践が実際に行われているかという実施状況を評価したものです。DtCTやQ2ターンの実施状況(Audit)がこれにあたります。これに対し2例目で患者が便秘になった率やHAPIの発生率が患者のアウトカムにあたります。どちらも大切で、数値や客観的な指標で示せるものをプロジェクトの導入前の計画段階から決めておく必要があります。このため、高度実践看護師には、EB-QIを成功させるための、物事を効率的に整理・計画し、チームや仕事を円滑に進める力が求められます。


おわりに


EB-QIを実践できる力はどのレベルの看護師にも求められますが、高度実践看護師には、高度なレベルでのシステムチェンジ、EB-QI能力が求められることになります。EBP理論や資料、参考文献などはありますが、まだまだ米国においてもDNPの教育を行う教育者の中でもEB-QIを十分理解して実践や指導を行えているとは言えない状況にあります。実践研究やTranslational researchという言葉も、よく理解されずに研究活動と混同している人も非常に多いのが現状です。このため高度実践看護師やDNPの看護師が看護研究と明確に区別しながら、EB-QIのプロジェクトを正しく効果的に遂行できる力が今まさに必要となっています。個人的なことですが、ここ20年ほどで大きく発達してきたEB-QIにPhDの過程で研究を学びながら、DNPレベルでのEB-QIを指導する機会を得たことは、その後ヘルスシステムでのナースサイエンティストとしての活動に大きく役になったと実感します。メンターとして最前線の看護師・高度実践看護師の方々と関り、患者のアウトカムの向上を達成しできることに、看護の力を実感できるていることを感じます。

高度実践看護師に求められるEB-QI能力とは、単にエビデンスを理解するだけではなく、それを現場の文脈に合わせて変革へとつなげる力です。複雑な医療環境の中で、看護が果たすべき役割はますます大きくなっています。EB-QIを通して、私たちは患者のアウトカムを確実に改善し、医療の質を次のレベルへと引き上げることができます。これからも看護の専門性を最大限に発揮し、実践の未来を切り拓いていきましょう。

 

参考文献

Melnyk, B. M., & Fineout-Overholt, E. (2023). Evidence-based practice in nursing & healthcare: A guide to best practice (5th ed.). Lippincott Williams & Wilkins


Snively, A. (2025, September 2). Are you following the latest evidence for managing certain cancer treatment symptoms? Here’s what’s new in the ONS symptom intervention resources. Oncology Nursing Society.

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